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 空を映す暗緑の眼、あるいはドゥブリンの瞳

TOC TOC!
コツコツでもなく
ノックノックでもない
ブラジルの、グレズィエの、燃える戸口に誰かが立って
扉をたたく音 トク

トクノシマ 来訪の島
扉を開ける主人の手元に黄金の閃光が走る
まず分け入ったのはティティ(手々)のシマ
海へと流れ出る水の亀裂を覆い尽くすガジュマルの巨木
舟つなぎの樹 常世の樹
時の舫い綱(もやいづな)を幾重にも巻いて
数百年を生きてきた老人の手(ティ)ぬ先の葉に
アサバナの妖精が踊っていた ニンファのナイアス?

イタケーの国の深い入江ポルキュスは「海の翁」と呼ばれていて
どんなに外海が荒れていようと
突き出した二つの岬に囲まれたポルキュスの浦は
いつも凪いでいた 停泊する船に繋留の綱が不要なほどに 
海の翁の額にきざまれた奥深い皴
その皴の漣が尽きる最深部に 一本の葉の長いオリーヴの樹があった
これもまた
不可視の綱がさすらうオデュッセウスの魂を繋ぎ止める 
舟つなぎの樹

・・・・・・・・(以下略)

今福龍太「空を映す暗緑の眼、あるいはドゥブリンの瞳」全編は、『KANA』11号(琉球弧、KANA舎、2005年8月刊)に掲載されています。